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【判例解説】物件の周辺環境の説明義務について川越の不動産屋が解説

判例解説

こんにちは!川越市にある土地買取王アイエーの鮎太郎です。

皆さんは物件の売買や賃貸契約などを交わす際に、不動産屋さんへ赴いたことはありますでしょうか?

不動産屋さんは皆さんが不動産に関わる売買や賃貸契約などをする際に、様々な面からサポートしてくれる存在です。

普通のお買い物と違い大きな金額が動いてしまう不動産の契約では、それ専門に扱う不動産屋さんはとても頼りになる存在だと思います。しかし、もしもその不動産屋さんとのやり取りに誤解が生じてしまった場合には、一体どうなってしまうのでしょうか?

今回はそんな"もしも"が起こってしまった判例について解説していきたいと思います!

 

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契約した物件が提示していた条件と違ったため訴訟!

今回の判例でマンションの買主となるXさんは、高齢な両親のためにマンションを購入することにしたそうです。Xさんは利便性周辺環境などを慎重に調査し、高齢な両親のためということもあって死を連想させるような施設にも注意を払いながら理想のマンションを探していました。

Xさんはようやく売主Yさん(本件の売主さん)の保有するマンションを気に入り、仲介業者Zの仲介のもとで契約するに至ったのですが、契約後に嫌悪施設の存在(遺体一時保管施設)やそれに反対する看板などの存在をXが知り、提示した購入条件と異なるとして売主Yさんと仲介Zさんを不法行為説明義務違反などで訴えたのが今回の判例になります!

今回の判例リンク:不動産適正取引推進機構RETIOより117-136


今回の判例のキーワードを見てみよう!

さて、今回の判例でもいくつか難しい言葉が出てきていますね。

嫌悪施設不法行為など皆さんも聞いたことがある言葉だとは思いますが、判例を吟味するうえで大切な存在となってきますので、ここで改めて定義や内容について確認していきましょう。

嫌悪施設・忌避施設ってなんだろう

嫌悪施設・忌避施設とはなんとも直接的な表現ですが、おおむねその施設の存在が周辺の住民にとって不快感や嫌悪感を与えるものを指します。

例えば騒音、異臭、大気汚染、土壌汚染などを引き起こす公害発生施設や、原子力関連施設、下水処理場、刑務所、火葬場、反社会的勢力組織の拠点など、心理的な抵抗を覚えるような施設は嫌悪施設・忌避施設に該当する可能性があります。

このような嫌悪施設などが周囲にあるような物件を、不動産業界では心理的な瑕疵のある物件などということがあり、心理的瑕疵により売買契約の目的が果たせないような場合には契約不適合責任を負う可能性があります。

今回の事例ではまさに心理的瑕疵によるトラブルですので、Xさんは契約不適合責任を主張することもできると思います。

 

リンク:事故物件の定義とは?心理的瑕疵と告知義務について解説!

//www.aia-kaitori.com/news/jikobukkenn-shinnritekikashi-kokutigimu/

不動産屋の説明義務とは?

仲介業者を通して不動産を売買する場合には、不動産屋さんから契約物件について重要事項説明書を交付した上での説明があります。重要事項説明では契約するにあたって、基本的な情報を契約当事者に提供することが宅建業法により定められているためです。

重要説明事項にて説明すべき内容は取引される土地の形質や権利関係など、基本的な内容の確認や、特筆すべき事項がある場合にはその説明などが記載されることがあります。

 

今回の判例ではXさんは売主Yさんや仲介業者Zから、重要だと思われる嫌悪施設についての説明が欠如していたとして訴えを提起する形となっています。

 

詐欺による不法行為

Xさんは売主Yさんと仲介業者Zについて、あえて告知すべきことを秘密にして騙したとして、詐欺による不法行為であると訴えています。

詐欺の成立要件は以下の通りとなっていますが、この条件すべてを満たして初めて詐欺が成立することになります。今回の判例でもやはり、Xさんの事を売主Yさんや仲介業者Zが騙そうと意思をもってだましたのかがポイントになると思います!

刑法246条に定められている詐欺の成立要件

  • 1.人を欺く意思を持った上で行為を行った (加害者は欺く意思のもって欺いた)
  • 2.相手方が錯誤を起こした (被害者は嘘を信じ込んだ)
  • 3.財産の処分行為が実行され、財産上の利益が転移した (被害者は金品を渡した)
  • 4.上記の事柄に因果関係があること

リンク:e-govより 刑法第246条

 

契約の錯誤無効とは?

人が法律行為(契約など)を行う時には、行為に至るための動機があると民法では考えられています。

例えば売買契約を交わす際には、売る意思と買う意思の表示があって初めて売買契約が成立するのですが、民法第95条では法律行為の要素に錯誤があった場合には法律行為自体が無効になるという旨が定められています。つまり法律行為を行うにあたり、買うための意思に錯誤がある場合にはその法律行為が無効になると定められているわけです!

しかしながら、法律行為の意思に錯誤(動機の錯誤)があったとしても、意思表示をした人自身に重大な過失がある場合には適用されないことになっています。

リンク:e-govより民法第95条


買主Xさんの主張

さて、本件の概要を把握したところで、今回扱う判例でXさんが裁判所へ訴えた内容を確認していこうと思います。事実なのか否かはさておき、訴えた内容について吟味していきましょう!

 

1. 売主Yさんと仲介業者ZはXを騙したと主張!

Xさんは売主Yさんと仲介業者Zに対して、当該物件の周囲に遺体一時保管施設(嫌悪施設)や施設に対する反対を表明する看板やのぼりなどの存在をあえて隠そうとしたと主張しました。物件の周囲を案内した際にも、売主Yさんと仲介業者Zはあえて施設の存在や看板などが見えないルートを選択して施設の不存在を誤信させたとXさんは主張しました。

注釈

仲介業者Zが間に立って交わされた買主Xさんと売主Yさんの契約の際には、当然「重要事項説明書」が交付されましたが、重要事項説明書には嫌悪施設についての記載がありませんでした。※嫌悪施設の存在は必ず説明しなければならないと法定されていませんので、適法に記載されていないことになります。

また、仲介業者Zが売主Yに協力を要請して作成された「物件状況等報告書」では、周辺環境へ影響を及ぼす施設について「知らない」と記載しています。このことから、売主Yさんは本当に周辺環境に悪影響を及ぼす施設について知らなかったであろうことが推測できます。

 

2. Xが物件を購入するにあたっての条件の提示は明確にされていると主張

Xさんは高齢な両親のためにマンションを購入するにあたり、“河川まで散歩が可能な物件”や“嫌悪施設の無い地域”などの条件を、物件内覧時に仲介業者Zへ表示していたと主張しました。

 

3. Xは仲介業者Zに説明義務違反があると主張

Xさんは仲介業者Zが遺体一時保管施設(嫌悪施設)の有無についての調査を怠り、嫌悪施設の存在をXに説明しなかったと主張しました。

さらにXさんは宅地建物取引業者なら嫌悪施設の存在は当然に保有しているべきだと主張し、仲介業者Zは嫌悪施設の情報を保有すべき義務に違反したと主張しました。


裁判所の考え方

買主Xさんの主張を確認したところで、今度は訴えに対する裁判所の考えについて見ていきましょう。

売主Yと仲介業者Zが騙したというXさんの主張について

売主Yさんは嫌悪施設の存在について失念していたと、仲介業者Zは施設の存在を認識していなかったとそれぞれ供述しており、裁判所はXさんに嫌悪施設の存在を説明していなかったことについて不自然な点は無いと判断しました。

さらに買主Xさんと共に売主Yさんと仲介業者Zが河川までの散歩ルートを車にて案内した際には、Xが最短ルートであると主張する道のりとは異なるものの、車でのルートとしては合理的な道のりであると裁判所は判断し、売主Yや仲介業者Zが故意に嫌悪施設や施設への反対の看板をXに隠すために遠回りしたとは考え難いと判断しました。

 

物件を購入する際の条件は提示されていたというXさんの主張について

買主Xさんはマンションを内覧した後に、嫌悪施設の不存在や河川まで散歩可能な物件であることなど、購入したい物件の諸条件を仲介業者Zへ提示したと主張している。

しかしながら当初Xが仲介業者Zへ問い合わせをした際には、コンビニなど利便性の高い施設については具体的に提示していた一方で、嫌悪施設については避けてほしいという希望を述べていなかった

それにも関わらず1件目のマンションを内覧した後で、その周辺に死を連想させる墓地などの嫌悪施設があったわけでもないのに「嫌悪施設がある地域」を除外してほしいと話すのは唐突と言わざるを得ない。

このことを考慮すると、例え買主Xが物件の周囲に嫌悪施設が無いことを購入するための条件(法律行為の動機)にしていたとしても、そのことを仲介業者Zへ意思表示されていたとは認められないと考えるのが妥当であると裁判所は判断しました。

 

仲介業者Zに説明義務違反があるというXさんの主張について

Xが嫌悪施設であるとする遺体一時保管施設は、施設周辺に悪臭や騒音などの実害を及ぼすとは予想され難く、本件マンションからも直線距離で380m離れているために、マンションの日常的な生活圏内であるとも言えない。

さらにマンションから河川まで散歩に出る時にも遺体一時保管施設の前を通るわけではなく、河川までの道も合理的なルートであれば本件施設に対する看板やのぼりなども目に入らないと認められる。

これらの事を考慮すると遺体一時保管施設の存在は、他の一般人がマンションを購入するとなった場合に、購入を断念するような事柄に該当するとは言い難く、仲介業者Zは買主Xへ施設の存在を説明すべき義務があったとは認められないと裁判所は判断しました。

判決

裁判所はXさんが主張するような詐欺のような不法行為は成立しないと判断し、売主Yさんと仲介業者Zによる説明義務違反もないと判断したため、Xさんの請求が棄却される結果となりました。 また契約の錯誤無効についても、売主Yさんや仲介業者Zに購入動機が表示されていなかったとして、錯誤無効は成立しないという判決となってしまいました。

今回の判例から読み取れることはなんだろう?

今回の判例では全面的に買主Xさんの訴えが認められない形で幕を下ろしてしまいましたが、内覧の際にあれこれその後の生活を想像することはよくあることだと思いますし、私個人的には内覧した物件のそばにお墓がなかったとしても、お墓の存在が嫌だと気付いたのであればその場で仲介業者へその旨を伝えると思います。

訴えを棄却されてしまった買主Xさんも、購入前に改めて購入条件を仲介業者さんへ提示していたのならば判決もまた変わったかもしれませんね。

さらに今回話題の中心となっていた嫌悪施設(遺体一時保管施設)についても、裁判所は購入を断念するほど忌避すべき存在とは見做さなかった点が印象的でした。なにはともあれ、人それぞれ何が心理的な瑕疵(心理的な抵抗があること)に該当するのか異なりますので、契約をする際にはちゃんと提示した条件に合った物件であるのかを改めて確認したほうが良いかもしれませんね。

 

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